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30 ◇女がやってきた

Author: 設樂理沙
last update publish date: 2026-05-01 00:08:32

 息を吐くように簡単に嘘を重ねることができて……

浮気のハードルが極端に低くなっている……

 夫が言ってきた女とは別れるという言葉の何と軽いことか。

 だが、口にした手前また以前と同じように家に帰って来るようには

なった。

 反省の色も……そして言葉もなかったけれど。

 夫のいる景色は霞んで見える。

 夫?

 この|男《こいつ》が私の人生のパートナー? ンなわけないよね?

 だけど夫なの?

 この人、誰なんだろう?

 私にとって誰ナンだろう?

 夫といるとイライラしてしまう。

 それなりの会話はするけれど、以前のような親密さは

持てるはずもなく、息苦しささえ感じてしまう。

 こんなあからさまに嫌悪感の混じった感情を持つことは

初めてかもしれない。

 不安や悲しみだったり、悔しさだったり、怒りだったり

そんな感情は経験していたけれど、吐き気を催すほどの嫌悪感は

初めてのことで自分でも驚いている。

 だから夫の前で普通に見えるよう、取り繕うのが大変。

 けれど、夫の家に帰ってくる頻度が増えてほっとしている自分がいるのも

確かで……人間ってつくづく矛盾を孕ん
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  • 『息をするように浮気を繰り返す夫を捨てることにしました』─ 醒めない夢 ─   32 ◇本気なんだから

       「ねえ、もうすぐ菅田《すだ》くん辞めちゃうでしょ?」 「あぁ。  大学の勉強が忙しくなるとか言ってたな。  けど、たぶんそういう理由じゃないわな。  ははっ。 あいつは真面目なヤツだからな、きっと俺たちのやってる ことを知っててヤ《嫌》になったんだろうよ。 俺がアイツの立場でもヤだね」 「そんなこと言ってぇ~。 そしたらまた私たち当分できないんだよ?  オーナーは私と仲良しできなくてもいいの? 」「いいことなくたって、店閉めて一日中盛ってる わけにもいかないだろうよ。 しばらく我慢しれっ!  次の人材をまた捜すから」 なんてことを仲間に言いながら、いくらなんでもなぁ、もういい加減 遊びもほどほどにして、少しは仕事に身を入れないとなぁ~などと、流石に 俺もちょっと店のことが気になりだしていた。  潰してしまっては、大変なことになる。  俺の未来は閉ざされたも同然だ。 踏ん張り時としては遅いくらいだが、なんとか今まだ店は持ちこたえて るのだし、ここは一念発起頑張らないとな。 そして、なんでここで? と思ったが果歩の顔が一瞬頭の中を 過《よ》ぎった。 ホントに不思議だった。  果歩が俺と別れられるはずがないと高を括っている俺だが、 その俺こそが果歩とはどんなことがあっても別れるという選択肢を 持ってないのかもしれないな、とそんなこともふと頭に浮かび、 そんなことが浮かんだことに妙に驚いた。  な……なんでこんな時にこんな事考えてるんだ? 俺は。  俺と仲間は品出しして棚に陳列しながら話していた。  「ねっ、さっきから何考えんの?  オーナーでも深刻に何かを考えることあるンだ?」「俺だってたまにはなぁ……って、大人をからかうんじゃない」「何よぉ~、私だって大人なんだからね。フン」「そだな、婚約者もいるんだもんな。  もう結婚もぼちぼちなんじゃないのか? バイトばっかしてていいのか?  そろそろ準備もあるだろう?」 「何で今そんな話すんの?  私はこんなにオーナーとのこと、考えてるのにぃ。  ねっ、私ねオーナーとこれからもずっと一緒にいたい」「う~んっン……俺もぉ~」 「ちゃかさないでっ! 本気なんだから」

  • 『息をするように浮気を繰り返す夫を捨てることにしました』─ 醒めない夢 ─   31 ◇その場凌ぎ

      あれから私は一度も店に行ってないので、仲間友紀と夫の関係がどうなってるのか正直分からなかったし、もう分かりたくもなかった。 夫は別れると言ってたけれど、あれだ……やはり続いていたのか? ふたりの関係は。 そんなことを少しばかりもやもやっと考えていたら店に着いた。 軽食なんかがあって飲み物があって……みたいなどんなカテゴリに属しているのか良く分からない店だ。 やはり昔で言うところの喫茶店になるのだろうか。 揉め事を持って来たとかじゃないよねぇ、もうほんと勘弁してほしいんだから、やめてよね。 椅子に座りながら私はそんなことを思った。 ─そんな果歩をよそに、バッチリメイクでミニスカにブーツ、ジャケットには兎の耳がついたフードとお尻付近に兎の尻尾が付いている可愛いぶりっ子ファッションで、果歩に会いに来た仲間が挑戦的な目で果歩を見ていた─      ◇ ◇ ◇ ◇ 果歩が青白い顔をして俺に仲間と別れてくれと言い俺もそれに対して別れると答えた。 そんな風に答えたけれど自分の中では本当に別れるところまで考えて妻にそう約束したわけではなく、所詮その場凌ぎの言い訳だった。 失くすもののない俺にとって果歩ひとりくらい、やいのやいのほざいてても、軽ぅ~くいなせると思ってたしな。 なんだかんだ言ったって子供がいなけりゃぁまた事情も違っただろうけど、子供を抱えた果歩が浮気ぐらいで俺と別れるとは考えにくかったし。 切るのはいつだってできるっていうのもあって折角楽しくやれる相棒《仲間》がいるのに、別れるにしても今じゃないって俺は心ではそう考えてた。 だけど妻の果歩に仲間と別れてほしいと言われてからほどなくして仲間がとんでもないことを言い出した。

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  • 『息をするように浮気を繰り返す夫を捨てることにしました』─ 醒めない夢 ─   28 ◇悔しい

    「何? ないな。 ……って俺のすることに一々文句つけんな! 」「いつものお決まりのパターンなのね」 ヤツは逆ギレしやがった。「文句って、まだ言ってません。 ……ってところを見ると自覚はあるのね。 また若い子と浮気してたね。 ちゃんとして! あなたは既婚者で私の夫で碧の父親でしょ? バイトの女にはヤメてもらいます。 仕事もしないであなたの性処理が仕事だなんて一体どういうことなの? そもそも今そんなことしている状況じゃないでしょうに。 このままじゃ、早晩店はやっていけなくなるわね。 一生懸命やってもなかなかお店の運営なんて大変なことなのに、オーナー自ら仕事さぼって何やってんだか」「働いてもないお前が店のことに口挟む権利はないよ、フフン」「じゃぁお店を潰す前に、借金だけが残る前に私の200万円、返してちょうだい。 それとあの女に慰謝料請求するわよ。 前の女と違って日本に住んでる人間だからどこまでも追いかけて回収してやる」 「分かった、分かったってぇ。 あいつだって婚約者いるんだし、俺とは遊びだよ。 俺も果歩と離婚する気ないしな。ただの軽いストレス発散の遊びなんだから、そう目くじらたてんなって」「婚約者ぁ~! あの子まだ10代くらいじゃないの?」「ああ見えて22才だよ。 親戚筋の幼馴染がいて、そいつが婚約者らしい。 結婚間近だし、結婚したらうちのバイトも止めてその婚約者の実家の近くに家を構えるらしい。 俺たち後腐れのない関係ってわーけ! 」「信じらんないっ、あなたたち。 婚約者や私のことを何だと思ってるの」「もうそろそろ別れ時だし、うんっ……別れるよ、別れるから。 この話しはもう終わりにしようぜ。腹減ったしぃ~ 飯にしよう」 ギィ~ グヤジィ~っていうのが私の本音だった。  私は何故まだこんな男と一緒にいるの? しがみついているの? こんな自分にも腹が立ってしようがなかった。。

  • 『息をするように浮気を繰り返す夫を捨てることにしました』─ 醒めない夢 ─   27 ◇やばい

    あれこれ考えている間に、いつもより早く夫が帰ってきてしまった。          ◇ ◇ ◇ ◇ 男子学生の菅田《すだ》が帰りがけにボソッと囁いてきた。 『奥さん? と名乗る女性《ひと》が来てました』 それは報告という名の言い方とは違っていた。  言うか言うまいか迷ったけど一応言っときますわ、というような、どうでもいいような言い方に聞こえた。 なんだよ、あいつ。 俺が奥の部屋から出て来て、仲間を帰してから今のいままで2時間もあって、客足も無くなって話す機会はあったのに、帰り際にぽそりと大事なことを話しやがる。 何か知らないが、大人しいのが取り柄だと思っていたのにボソッと呟いただけ、のような報告に棘が感じられたのだ。 あんな大人しいのが案外怒らすとトンでもなく怒り狂って発狂して暴力的になるのかもなぁ~なんてそんな思考に走っていたが、おぉ何てこったい、俺のマヌケ! 果歩はいつ来たんだ? 誰も俺に声かけてないだろ?   奥の部屋にいたのに誰も声をかけてなくて……だけど菅田《すだ》は果歩にきっと俺の居場所を聞かれて正直に奥の部屋にいると言ったはずだ。 見られたのか? 俺たちの痴態を。 ヤバイ、やばいぞぉ~これは、 ヤバイヤバイ。 見られたとしてどの辺りを見られたのか。 俺は脳内をフル稼働して仲間友紀との痴態の初めから記憶を呼び戻し、知らず知らず言い訳のできるシーンを捜していた。 ガクッ、俺たちふたりの行為に言い訳のできるようなシーンは見当たらない……か。 しかし、なんだよ、怖いものなしの俺様なんだから落ち着けぇ~。 果歩が怒っても泣いてもほうっておけばいいだけだ。 いい加減浮気ぐらいって、免疫つけてもいい頃だろ? 俺とは何だかんだ言いながら別れられないんだから。          ◇ ◇ ◇ ◇「ただいま」「お帰りなさい。今日お店に行ったわ」「……らしいね」 やっぱり男子学生、夫に報告してたんだ。 じゃあ、夫は浮気の現場を見られたって知ってるよね? 「私に何か言うことはないの? 」

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